「女子はダンス、男子は柔道」にモヤモヤも…体育の授業にみえるジェンダー観とは?【ジェンダー×スポーツVol.2】

多くの人の運動に対するイメージや経験が養われるきっかけになることが多い、体育の授業。体を動かす楽しさや、仲間意識の醸成など、心の発育にも大切な役割があります。一方で、多数の生徒を統率する中で、こぼれやすい悩みや戸惑いも。

ジェンダー論とスポーツ社会学を専門とする明治大学の高峰修教授に、体育の授業に存在するジェンダー課題や、性別に関わらずより多くの人が参画しやすい運動の場のためにできることなどを聞きました。

「運動にまつわる性に関する悩みや戸惑い」調査について

ハースト婦人画報社はこのほど、WeSAYとエル、エル・ガールで「運動にまつわる性に関する悩みや戸惑い」についての調査を実施しました。

 

この調査は、パリオリンピックを機にスポーツへの関心が高まるタイミングを見据え、あらゆる性の人が楽しめる運動の在り方を探るために行われたもの。体育や水泳の授業、部活動での体験を振り返って回答をいただきました。

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体育の授業が作る「スポーツ観」とは?

「運動にまつわる性に関する悩みや戸惑い」の調査では、そのような悩みや戸惑いを感じたことがあるかどうか、そしてその種類を聴取しました。その中で悩みや戸惑いが〈ある〉と回答したのは、全体で41%。女性では51%にのぼります。

さらに、運動部経験の有無をもとに、悩みや戸惑いがあったかどうか、そしてその種類を調査。すると運動部に所属をしていなかった人も、日常的に運動の機会があった運動部経験者同様に、過半数以上が悩みや戸惑いが〈ある〉と答えたことがわかりました(表12参照)。

〈表1

〈表2

※表12は女性の回答をベースにしています。回答者のうち、男性の方が運動部経験者が多く、「悩みや戸惑いがない」と回答した人も多いため、運動部経験がある人の悩みや戸惑いの数を少なく見せる影響があり女性の回答に限定しました

これは学校に通う中で必然的に運動に触れる機会であった、体育や水泳の授業を通した悩みや戸惑いが存在していたということ。さらに、それがきっかけとなって多くの人が運動への苦手意識をもったりしたと考えられるのではないでしょうか。

体育や水泳の授業に参加していた学生から寄せられた運動にまつわる性に関する悩みや戸惑いをもとに、授業の内容が生徒に与える影響を考えます。

体育は本来「体を育む」もの

高峰教授は大前提として、「体育は単にスポーツを行う場ではない」と言います。「体育は本来『体を育む』もの。スポーツは、そのための教材の一つにすぎません。ダンスなども含めて、体の動かし方を覚える教科でもあるのです」。

 

スポーツには協力プレーや社会性を覚えられる大切な役割がありますが、体育授業の比重がスポーツに偏っていると、「試合に勝たなきゃ」「上手じゃなきゃ」といった、勝利至上主義的な側面ばかりが焦点化されてしまうそう。

 

「周りとの関係で自分に劣等感を抱えやすい」ことも、体育教科の特徴だと述べます。

 

「チームプレーにうまく関われなかったり、体を動かすことが苦手だという生徒にとっては耐えがたい時間になってしまいます。団体競技は連帯感を強められる一面もありますが、苦手な子にとっては、自分がミスすることでうまくいかなくなるということが、みんなが見てる場でわかってしまう。他の教科にはない特徴のひとつです」

 

そして別の統計※では、男子の方が幼いころから組織的スポーツを経験している割合が多く、地域のクラブでも参加できる受け皿が整っているという環境的差異が見られます。

 

体力テストなども「筋力」がある方が基本的に優位になるような種目が占めており、男子が優位になりやすい構造にあることで、女性やその他の性の人は劣等感をもちながら過ごしやすい傾向を指摘します。

※笹川スポーツ財団(2023)子ども・青少年のスポーツライフデータより

性を実感させられやすい場面も

〈表3〉では、性別ごとに「運動にまつわる性に関する悩みや戸惑い」の有無と、その種類をまとめています。回答数が30未満のため参考値となりますが、ノンバイナリー(女性・男性にあてはめない性別)の回答者は、特に〈思春期における体月の変化〉や〈運動着やユニフォームの形状や、更衣室に関連すること〉が上位に並びました。

〈表3ノンバイナリーはn=30未満のため参考値

同項目におけるフリーアンサー(自由記述)では、自身の性や性のあり方について体育や水泳の授業で実感させられることが多く、それに抵抗感を抱いたという声がすべての性別から寄せられました。高峰教授は学校生活において、「性別分け」がさまざまな場面で使われていることが影響していると指摘します。

 

「学校生活には男女平等が浸透しているようですが、教室で教員は性別で分けて指示を出し生徒児童を動かしがちだということが報告されています。性別が、学校環境を統制する1つの手段になっているのです」(高峰教授)

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この記事のキュレーター

ハースト婦人画報社が運営する各メディアが取材を重ねて得たセクシュアルウェルネスに関する知見を、複数の媒体で横断的に発信するプロジェクトが「WeSAY(ウィーセイ)」です。

あらゆるジェンダー、セクシュアリティの人が、身体的、感情的、精神的、社会的にウェルビーイングな状態でいられるための情報を発信しています。


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