キャッチアップ接種の期限迫る!10代・20代で知っておきたい子宮頸がんとHPVワクチンのこと
子宮頸がんをはじめとする、HPV疾患を予防する「HPVワクチン」。風疹麻疹ワクチンやBCGなどと同様に、国による積極的な接種の推奨が再開されるというニュースを耳にした人もいるのでは? HPVワクチンや子宮頸がん予防の啓発を行う「みんパピ!みんなで知ろうHPVプロジェクト」代表理事で、産婦人科医の稲葉可奈子先生が、原因や予防する方法を分かりやすく解説。
子宮頸がんとは? 若い世代でもかかるもの?
日本産科婦人科学会によると、年間約1万人が罹患し、約2,800人が亡くなっているという子宮頸がん。“がん”と聞くと、ガール世代にはあまり馴染みがないかもしれないけれど、20代などの比較的若い世代での罹患が増えているそう。
「子宮頸がんは、約95%以上がヒトパピローマウイルス(HPV)という、ウイルスの感染によっておこるがん。感染の原因は主に性交渉です。HPV自体はごくあふれたウイルスで、性行為の経験がある人の約80%が、一生に一度はHPVに感染するといわれています。そのうちの一部が運悪く病気に進行し、子宮頸がんを発症します。
子宮頸がんの発症年齢は、20代後半〜40代が最も多く、比較的若いうちにかかる人が多いのが特徴です。20代後半以降というと、ちょうど結婚や妊娠、出産を考える方も多い年代。子宮を失うかどうかが治療に関わってくるので、ぜひ予防してもらいたい病気です」
ワクチンで予防できる子宮頸がん
HPVワクチンは、子宮頸がんをおこしやすいタイプのHPVの感染を防ぎ、子宮頸がんの原因の50~70%を防ぐ。
「HPVというウイルスが引き起こす子宮頸がんや、がんになる手前の状態(前がん病変)にならないよう、予防してくれるのがHPVワクチンです。
前がん病変は、がん検診でも見つけることができますが、運よく前がん病変で見つかった場合でも、負担は少なくありません。数カ月ごとに婦人科を受診して、働いている方なら仕事を休まないといけないかもしれないですし、内診台にあがって診察を受けること自体が、女性にとっては苦痛ですよね。そして検査のたびに進行していたら……と不安になる精神的な苦痛も。がんになる手前で見つかればそれでいいというわけではなくて、前がん病変を予防することも大切なこと。その前がん病変にすらならないように予防してくれるのがワクチンです」
海外の接種率は高い! 90%以上の国も
厚生労働省によると、2021年度の日本国内のHPVワクチン実施率は、対象年齢の女性の26.2〜37.4%。一方で、カナダ、イギリス、オーストラリアなど対象年齢の女性の80%以上がワクチンを受けている国もある。
「例えばオーストラリアでは、ワクチンの接種率は80%を超え、検診の受診率も高く、2028年には子宮頸がんが撲滅されるだろうと推測されています。これはオーストラリアに限らず、どの国でもできるはずだと思います」
HPVワクチンは、WHO(世界保健機関)による推奨をうけ、2022年12月時点で120カ国以上で公的な予防接種として広く接種が行われている。
【HPVワクチンを接種した女子の割合(2021年)】
カナダ:87%
イギリス:83%
オーストラリア:82%
アメリカ:61%
ドイツ:47%
(出典:厚生労働省)
国内での積極的な接種推奨も再開!
日本では2013年4月に、小学6年~高校1年の女性への定期接種が始まったけれど、接種後の痛みや副反応疑いの報道が相次いだことをうけ、積極的な接種の推奨を一時差し控えることに。それから8年経った2022年4月より、厚生労働省が積極的な接種の勧奨を再開。がん予防効果に関する海外の調査結果も、議論を後押しした。
「HPVワクチンによって、前がん病変の予防ができるというデータは何年も前から世界中で出ていたのですが、2020年にスウェーデンの研究機関から、HPVワクチンが子宮頸がんの発症リスクも下げることができるというデータが出されました。それによると、10~30歳の女性約167万人を調べた結果、17歳未満での接種で、子宮頸がんの発症リスクを88%下げられる、というもの。
安全性に関するデータが蓄積され、それによって報道のありかたが変わってきたことで国民の理解も進み、積極的な接種推奨の再開にむけて国が動きだしたのではないかと思います」
キャッチアップ接種の期限が迫る。2024年9月までに1度目の接種を
2013年から2021年のあいだ、HPVワクチンの積極的な接種が差し控えられていた期間に、接種の対象であった人(小学校6年〜高校1年相当)には、HPVワクチンが公費で接種できる“キャッチアップ摂取接種”の機会が設けられている。
キャッチアップ接種の対象
対象となるのは、誕生日が1997年4月2日~2008年4月1日の女性(平成9年度生まれ~平成19年度生まれ)で、過去にHPVワクチンの接種を合計3回受けていない人。
キャッチアップ接種の期限
キャッチアップ接種の期限は、2025年(令和7年)3月まで。3回分すべて接種するのに約半年かかるため、2024年9月までに1回目の接種を!
※15歳未満で9価HPVワクチンの接種を開始する場合は2回でOK
接種を受けるための手続き
具体的な接種方法は、住民票のある市町村から届くお知らせを参照して。
「今の高校1年生は、来年になると無料で接種できなくなります。今年(2024年)9月までに接種を開始しましょう。また、15歳未満で9価HPVワクチンの接種を開始すると、3回ではなく2回で済みますので、併せて検討してください」
HPV啓発プロジェクト「みんパピ!」代表理事 稲葉可奈子医師
京都大学医学部卒業、東京大学大学院にて医学博士号を取得。大学病院や市中病院での研修を経て、2024年7月渋谷に小中学生から受診できるレディースクリニック「Inaba Clinic」を開院。HPV(ヒトパピローマウイルス)と子宮頸がんに関する啓発活動の一環として「みんパピ!みんなで知ろうHPVプロジェクト」の代表理事を務める。
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