不妊の治療を解説「卵巣刺激」・「人工授精」ってなにをする?

イラスト/コナガイ香

自分たちなりに妊活をしてみたけれど、なかなか赤ちゃんを授からない。
もしかして不妊? まずは不妊治療の基本的な流れを知ることから始めましょう。
2022年4月に不妊治療の保険適用がスタートし、最初に2人での受診が必要になりました。

今回は「卵巣刺激」、「人工授精(AIH/IUI)」について、田口早桐先生にお聞きしました。

監修の先生

田口早桐 先生(オーク銀座レディースクリニック医師)

PROFILE: 産婦人科医、生殖医療専門医。兵庫医科大学大学院で不妊症を研究。兵庫医科大学病院、府中病院を経て、医療法人オーク会にて不妊治療を専門に診療にあたる。著書に『やっぱり子どもがほしい! 産婦人科医の不妊治療体験記』(集英社インターナショナル)など。 https://www.oakclinic-group.com/

不妊治療 2人のスタートガイド #4
※参考:「妊活たまごクラブ 初めての不妊治療クリニックガイド 2023-2024」

治療の前に行う卵巣刺激

自然周期では、1度に排卵される卵子の数は1個です。
そのため複数の卵子を採取するために、排卵誘発剤(飲み薬か注射)によって卵巣を刺激し、複数個の卵胞発育を促します。

体外受精では卵巣刺激を行うのが一般的。また、人工授精でも自然周期ではなく卵巣刺激をする場合も。
排卵誘発剤を使って複数個の卵胞を上手に発育させてから採卵し、授精をします。
卵巣刺激の方法は経口剤を使用する低刺激法や、注射薬がメインとなる高刺激法など、それぞれに特徴があり、女性の年齢や治療計画、施設によっても選ぶ方法はさまざまです。
一概にどれがベストであるかは難しい問題ですが、結果重視の場合は高刺激法が一般的です。

排卵の誘発法

自然排卵は1サイクルで1個しか排卵されないため、できるだけ多くの良質な卵子を採取するために、排卵誘発剤で卵巣に刺激を与え、人工的に排卵周期をつくります。卵巣刺激の方法はいくつかありますが、現在はPPOS(Progestin-primed Ovarian Stimulation)が主流です。

●低刺激
強い刺激で効果が得られない場合や卵子を採取する数をセーブしたい場合に行います。日本では、海外に比べて低刺激法を行う施設が多く、飲み薬の単独使用か、注射を併用します。

●自然周期
排卵誘発剤を使わず自然に育った卵子を採取する方法です。体への負担は少なく、他の方法を試したあとに行う場合もありますが、採卵1回あたりの妊娠率は他の方法より低め。

●高刺激
強い刺激を与える方法。点鼻薬を使うロング法、服薬と注射で行うアンタゴニスト法などがありますが、最近では黄体ホルモン剤(プロゲスチンなどの飲み薬)で排卵をコントロールしながら卵巣を刺激に加えるPPOSが普及しています。

排卵誘発に使われる薬

排卵誘発に使われる薬(ゴナール/ヒスロン/プロベラ)

排卵を誘発する薬は、排卵をコントロールしたり、ホルモン量を調整するもので、経口のもののほか、薬剤を注射器に入れて自分で注射するタイプなどもあります。

じつは「自然」妊娠に近い人工授精(AIH/IUI)

タイミング法を何度か試しても妊娠しない場合や、検査の結果で人工授精のほうが妊娠の可能性が高いと判断された場合に行います。
「人工」授精ですが、実際は自然妊娠に近い方法です。

女性の体への負担が少なく、原因がわからない不妊の場合や、軽度の男性不妊(精子の運動率や濃度が低い、性交障害)の場合に人工授精を行います。
女性の年齢が高い場合や、卵管に問題がある場合、精子の状態が極端に悪い場合は、人工授精をせずに体外受精を行います。

人工授精の流れ

3つのSTEPでご紹介します。

【STEP1】3〜4日前:排卵日を予測

受診は女性のみ。超音波検査で、卵胞の大きさや子宮内膜の厚さを測定、排卵日を予測します。血液検査で、ホルモン値を測定する場合も。

【STEP2】当日:人工授精(AIH)

排卵前の準備に使われるホルモン剤。クロミッド、セキソビットなど。
排卵前の準備に使われるホルモン剤。クロミッド、セキソビットなど。

排卵日に合わせて、人工授精をします。当日に男性の精液を採取し、精子を洗浄・濃縮してから専用の注射器で子宮内へ注入します。

【STEP3】数日にわたって:黄体ホルモンの補充など

ルトラールとデュファストン
どちらも着床を促すための薬。さまざまな形状のものがある。

排卵が起こらない場合は、排卵を誘発するためにHCG注射や点鼻薬を使用することもあります。また着床率を高めるために黄体ホルモンを補充することも。

人工授精・当日のスケジュール

精子の洗浄や調整に1時間程度、人工授精自体は1分もかかりません。
内診台に上がり子宮内に精子を注入して終わりです。合計1時間半程度、当日はそのまま帰宅してかまいません。
感染予防に抗生物質を出しているところが多いので、当日の性交渉は控えましょう。

不妊の原因に多い排卵障害

排卵障害は、排卵に関わるホルモンが正常に分泌されていないため、排卵が正しく行われていない状態です。排卵障害の原因には、病気の他、無理なダイエットやストレス、先天的な問題などがあることも。その場合は排卵誘発剤を使うのが一般的です。

●卵巣機能障害
卵巣に障害があると、女性ホルモンの1つであるエストロゲンが増えません。エストロゲンは月経終盤に子宮内膜を厚くしたり精子が通りやすいよう頸管粘液の分泌を促します。

●多嚢胞性卵巣症候群
男性ホルモンが増え、卵胞が成熟せず排卵しにくくなります。年齢に関係なく昔から多い病気で、根本的な治療法はありませんが、排卵誘発剤を使用することで対応ができます。

●高プロラクチン血症
プロラクチンという母乳分泌を促したりするホルモンが血中に増えると、排卵がスムーズに起こらず、受精卵も着床しづらくなります。薬で治療しますが、薬が効かないことも。

●無排卵月経
月経のような出血はありますが、排卵していない状態です。ホルモンが分泌されず、卵胞が育ちません。原因は、ストレスや無理なダイエット、加齢や内分泌疾患などさまざま。

■監修

田口早桐 先生

●イラスト/コナガイ香
●撮影/鈴木江実子
●構成・文/長谷川華(はなぱんち)
●撮影・写真協力/オーク銀座レディースクリニック

※記事掲載の内容は2023年8月25日現在のものです。以降変更されることもありますので、ご了承ください。

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この記事のキュレーター

妊娠・出産・育児の総合ブランド「たまひよ」。雑誌『妊活たまごクラブ』『たまごクラブ』『ひよこクラブ』を中心に、妊活・妊娠・出産・育児における情報・サービスを幅広く提供しています。


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