フォーリンラブ ハジメさん夫婦の不妊治療体験「赤ちゃんをこの手に抱くまで夫婦の6年」

男性不妊を公表し、奥様のミホさんと不妊治療を乗り越え、2022年に見事赤ちゃんを授かったハジメさん。
6年の治療期間には流産というつらい経験もありました。
それでも前を向いて、ミホさんと夫婦二人三脚で歩んだ不妊治療の道のりをたどります。

フォーリンラブ ハジメさん夫婦の妊活振り返りインタビュー<前編>では、妊活をはじめたきっかけや、その経緯を妊活たまごクラブがお聞きしました。

監修の先生

林博 先生

PROFILE:恵愛生殖医療医院、院長。生殖医療専門医·臨床遺伝専門医·内視鏡技術認定医·周産期専門医のすべてを持つ不妊治療のスペシャリスト。2018年に開設した恵愛生殖医療医院では、次世代型培養室「AI-Labo」のほか、AIによる画像認識技術を利用したタイムラプスインキュベータを世界最多台数導入。全自動型胚凍結システムも良好な成績を収める。

妊活振り返りインタビュー・フォーリンラブ ハジメさん夫婦 #1
※参考:「妊活たまごクラブ 初めての不妊治療クリニックガイド 2023-2024」

もしかして不妊?妊活の扉を開けたハジメさん

不妊の原因は一般的に女性にあると思われがちですが、実際には男性側に原因があることも少なくありません。現在、男性側、あるいは男性女性両方に原因がある場合を合わせると、その割合はなんと50%に上るともいわれています。

お笑いコンビ「フォーリンラブ」のハジメさんも男性不妊によって妊活を経験したお1人。2022年8月、自身のYouTubeチャンネルで相方のバービーさんとともに、第1子妊娠と、男性不妊、6年に及ぶ妊活について公表しました。

「子どもは自然にできるものだと思い込んでいました。しかし結婚後、3年経っても妊娠の兆候がなく、ネットでいろいろ調べてみた結果、男性不妊のことを知りました」

ただ、男性が自ら不妊治療専門クリニックに行くのはなかなかハードルが高いもの。でも、ハジメさんは奥様であるミホさんが自分の責任だと思わないよう配慮して、自分から男性不妊治療専門クリニックに行くことを決意しました。

「原因はミホではなく、もしかしたら僕なのかも……という思いもありました。それに、女性が自分からクリニックに行って体を調べるのはなかなかハードルが高いんじゃないかと思って……。それなら僕が先に行ってから、じゃあ私も行こうかなという気持ちになってくれたらいいなと思ったんです」

何とも思いやりのあるハジメさん。“男性不妊 クリニック”で検索して気になったクリニックを訪れました。そこで精液検査をしたところ、精子の運動率が良くないこと(精索静脈瘤 ※1)を告げられました。まずはミホさんに伝えて、今後どうするのかを話し合いました。そして、これをきっかけに2人の6年間の妊活がスタートしたのです。

※1【用語】精索静脈瘤(せいさくじょうみゃくりゅう)手術

○男性不妊の原因として多く見られ、日帰り手術が可能
精索静脈瘤は、男性の精巣(睾丸)の静脈におなかからの血液が逆流して精索静脈が瘤(こぶ)状にふくれるもので、正常男性の15%、男性不妊症の患者の40%にみられるとされています。治療では精索静脈をしばって血液の逆流を止める手術を行うことが多く、現在は手術用顕微鏡を使用する「低位結紮(けっさつ)術」が主流となっています。術後の精液所見の改善率は40~60%、1年以内に自然妊娠できる確率は25~45%とされています。体外受精(顕微授精)の成績も向上する可能性が指摘されています。(林先生)

続いてミホさんも不妊治療専門クリニックへ

精索静脈瘤手術の翌日は、相方バービーさんとの営業日。バービーさんに告白したところ、これはネタに……と反復横跳びを求められ、タジタジになったハジメさん。
精索静脈瘤手術の翌日は、相方バービーさんとの営業日。バービーさんに告白したところ、これはネタに……と反復横跳びを求められ、タジタジになったハジメさん。

一方、ミホさんはハジメさんのクリニックでの結果を聞いてこう答えました。

「私もクリニックに行ってみる」

ミホさんもすぐにクリニックを探して受診しました。結果、子宮、卵巣、ホルモンバランスなど、問題となる要素はありませんでした。

まずはこのクリニックで人工授精を2回トライしてみましたが、結果は出ません。このあと、ハジメさんは、自身の精子の運動率を上げるため、再び男性不妊治療専門クリニックを訪れます。

「選択肢が2つあると言われました。1つは漢方薬の服用。もう1つは精索静脈瘤手術。そのクリニックでは成功率が約7割だと聞いたので、可能性があるのならそこに賭けようと手術することを決断しました」

手術は日帰りとはいえ、痛みはもちろん残ります。翌日営業の仕事があったハジメさんは、相方のバービーさんに事情を話しました。

「これはネタにするしかない!」「反復横跳びやってみて!」

営業中に突っ込みを入れられたことは今でも忘れられない思い出になっています。
ハジメさんの手術を終えて妊活を再開。今度こそはと期待を寄せていた2人でしたが、再検査で宣告を受けることになります。

「精子の運動率が手術前と変わっていません」

この時ミホさんは34歳。年齢的に自然妊娠する可能性が低くなりつつあること、ハジメさんの精子を最大限に生かすためにも少しでも早く妊活を進めることを提案され、顕微授精にステップアップすることになりました。

「排卵誘発のためのホルモン注射を自分で打たなければいけないのは本当に怖かったです……」

1回目の顕微授精で受精卵が2個できたものの、どちらも着床には至りません。そのあともう一度試しましたが、結果、妊娠には至りませんでした。

副作用のつらさで最初のクリニックを卒業

ミホさんが通っていたクリニックは、1回の採卵でなるべく多くの卵子を確保して凍結しておくという方針でした。

「とにかく自分で注射を打つのがつらくて……。注射を打って30分後くらいの副作用は想像以上で、まるでホットフラッシュが起こったかのような感覚。仕事をしていたので休むわけにもいかず、最寄り駅までフラフラになりながら通ったことを覚えています。排卵誘発の薬も思ったより副作用がキツくて……」

そんな治療に苦しむミホさんを見てハジメさんは考えました。

「不妊治療自体が初めてだったので、どんなクリニックがあってどんな治療方針なのかなど、詳しいことは全くわからず、でも治療はしなければとスタートしました。もちろん評判が良いクリニックを選んだんですけど、仕事をしながら自分で注射を打って、つらそうな姿を見て、これは無理があるんじゃないか……と思い始めました」

そのころ、ミホさんの友だち経由で“最後の砦”ともいわれているクリニックがあることを知ります。

「今までのクリニックのようにどんどん卵巣に刺激を与え、注射を打って卵子をたくさん取るといった方針とは真逆で、なるべく自然な形で排卵させるという方針のクリニックでした。クリニックと相性が合う合わないは人それぞれだと思ったので、今までのクリニックで結果が出なかったのは、もしかしたら自分たちには他の治療法のほうが合うんじゃないかと考えて、転院してみようと思いました」

ミホさんの話に、ハジメさんも「すぐに転院しよう!」と同意。精索静脈瘤手術後も、精子の運動率が芳しくなかったハジメさんですが、サプリメントの服用や生活習慣を変えることで少し運動率が上がったこともあり、善は急げとばかり、新しいクリニックの扉を叩くことになりました。ここまでに約2年の月日が流れていました。

転院して間もなく初めての妊娠判定が!

2019年の年末、2人はクリニックを転院し、すぐに治療を再開しました。それまでと違って排卵誘発のための注射はなく、1日1錠の服薬のみで、ミホさんの体の負担はうんと軽くなったそうです。

「この方法が私の体には合っていたようで、その時は良い状態の卵子が3個取れました」

このクリニックでも顕微授精によって移植をし、その後迎えた判定の日、妊娠をしていることがわかりました。胎嚢も赤ちゃんの心拍も確認でき、妊娠継続率も高いというお墨付き。ミホさんの喜びは頂点に達しました。早速、両親や周囲の友だちにも報告。役所に母子手帳を取りに行き、ワクワクする気持ちが止まりませんでした。
転院したクリニックも早々に卒業することになり、今度は妊婦健診へ。しかし、初めて訪れた産婦人科で思いがけない一言を告げられました。

「心拍が確認できません。稽留流産(※2)の可能性があります」

この時はまだ10週目。想像もしなかった結果にミホさんの頭は真っ暗になったと言います。

「信じられない、信じたくない、その一言でした」

気がつくと診察室の隣に運ばれ、助産師さんの前で泣いていたというミホさん。その後どうやって家に帰宅したかも覚えていないほどのショックでした。ただ、流産が確定したわけではなく、2週間後にもう一度確認するということでした。
報告を受けたハジメさんも次は一緒に産婦人科へ行きました。結果は流産確定。

「“絶望”という言葉も軽く感じるくらいの気持ちでした。でも、僕よりミホのほうがキツいだろうというのは感じました。僕ができることは、あえて前向きの言葉はやめよう、できるだけ彼女と温度感を合わせようということでした」

実は近しい人に妊娠の報告をしていたハジメさん。病院の外に出て電話で報告をしながら、男泣きしてしまったそうです。

「僕たち夫婦は必ずしも最初から温度感が一緒ではありませんでした。でも、ここがターニングポイントになって、僕も改めて妊活について深く考えるようになりました」

※2【用語】稽留(けいりゅう)流産

○母体に症状がなく超音波検査でわかる流産
出血や腹痛などのいわゆる流産の徴候はないが、超音波検査で発育が停止(流産)していると診断されるものを稽留流産といいます。子宮内容除去手術を行う場合と、外来で経過を見て自然排出を待機する場合があります。妊娠週数や経過にもよりますが、排出後から妊活再開までに1~3ヶ月を要します。(林先生)

コロナ禍により妊活を休むことを選択

稽留流産の手術をした時期、世の中はコロナ禍の真っただ中。不妊治療のクリニックから、先行きが見えないため受精卵の凍結期間を延長するという連絡を受け、2人は一度心身ともにリセットして妊活を休むことを選択しました。

数ヶ月のお休みのあと、再び治療をスタート。ここからもまた試練が続きます。せっかく着床しているのに妊娠に至らない「化学流産(※3)」を繰り返します。

「クリニックを変えてすぐに妊娠することができたのに、今度は化学流産ばかり……。どうして妊娠できないの?と落ち込みました」

クリニックからは、残された時間が少ないので頑張りましょう、とのエール。そこからミホさんは、結果に一喜一憂せず、治療や、妊活のために自分ができることを一つ一つやっていこうと気持ちを固めました。

※3【用語】化学流産

○陽性反応が出ても超音波で確認できない流産
化学流産(生化学的妊娠)とは、尿や血液を用いた検査で妊娠反応は出たものの、超音波検査で妊娠が確認できる前、つまり非常に早い時期に流産してしまった状態をいいます。ごく初期の流産なので、胎児側に原因があることが多いですが、化学流産を繰り返す場合には母体側の体質(不育症)と関連があるという報告もあります。(林先生)

PGT-A検査を決断。ついに妊娠が確定

PGT-A後、妊娠判定の日。コロナ禍で同席できなかったハジメさんは近くのカフェで祈るような気持ちで待機。ミホさんはお守りを持ちながら診察室に。
PGT-A後、妊娠判定の日。コロナ禍で同席できなかったハジメさんは近くのカフェで祈るような気持ちで待機。ミホさんはお守りを持ちながら診察室に。

次のトライをしようと考えていた時、クリニックから当時まだ臨床研究中だというPGT-A(着床前遺伝学的検査の一つ。詳しい検査内容は下記解説を参照 ※4 )という検査の提案を受けました。ただしこの検査は保険適用がなく、継続的に続けることが前提でした。

「染色体に異常がない受精卵の確率はどのくらいか尋ねたところ、5個に1個という回答があって……。一体いくらかければいいの?と頭の中で思わず計算してしまいました」

一方ハジメさんは、この話をミホさんから聞いた時、ひそかにこう思ったのだそうです。

「このクリニックに来て、稽留流産と化学流産を繰り返しました。ここまでで4回。PGT-Aが5分の1の確率やったら……。え? 次いけるんちゃうん?って」

ここで2人はじっくり話し合いました。ミホさんは、自分が流産を繰り返していることを受けて、確実な受精卵を移植することが大事だという考えをハジメさんに伝え、やれることはやりきろうということに。

PGT-Aではいちばん良いグレードAの受精卵なら移植、グレードBでも妊娠できる可能性がないというわけではないという説明を受け、いざ検査へ。その結果、受精卵はいちばん良いグレードAの判定が出たのです。

2022年2月、妊娠判定を受けに行ったミホさん。否応なしに期待値は高まります。コロナ禍でハジメさんは同席できず、近所のカフェで結果を待つことになりました。

「おめでとうございます!」

妊活を始めて6年、度重なる流産を乗り越えて2人がいちばん欲しかった言葉が返ってきました。すぐに携帯電話からハジメさんにメッセージを送ったミホさん。

“ほら、計算通りやん! 医療の力ってすげえな!!”

ハジメさんの予感は的中しました。そこから数週間後、改めてクリニックへ。今度は問題なく妊娠が継続していることがわかりました。

妊娠中は健診のたびにちゃんと育っているのかドキドキしていたというミホさんですが、2022年10月、無事に元気な女の子が誕生。ハジメさんは、仕事が終わるとダッシュ帰宅するほどのメロメロぶりだそう。

6年にわたる妊活を振り返り、こう語ってくれました。

「最初は妊娠がゴールだと思いがちですが、途中いろんなことが起こります。その時は夫婦でコミュニケーションを取ることが大事。もし迷うことがあったら『妊活たまごクラブ』を読んだらいいよ!!」

※4【用語】PGT-A

○受精卵(胚)の染色体について異数性(染色体の本数の異常)の有無を調べる検査
胚(受精卵)の細胞の一部から、将来生まれてくる子どもの遺伝情報を調べる着床前遺伝学的検査の一つ。染色体の異数性がある胚を移植しても妊娠に至らなかったり流産の原因になったりするため、胚の細胞の中の染色体について異数性の有無を確認します。異数性のない胚を選んで移植すれば、妊娠率が向上し、流産の確率を抑えられると考えられます。ただし、PGT-A検査は実施可能な医療施設が限られており、今は一定の適応条件を満たした人のみが受けられます。また、検査は自費の上、いくつかデメリットがあるため、実施するかどうかも含め、担当医と家族と話し合うことが大切です。(林先生)

ハジメさん夫婦の妊活ヒストリー

2014年●結婚
子どもは自然にできると思っていた。

2017年●
【ハジメ】男性不妊治療専門クリニックへ、精索静脈瘤があることを告げられる。
【ミホ】不妊治療専門クリニックへ、血液検査で問題はなく、人工授精に2回トライするが妊娠に至らず。

2018年●
【ハジメ】 精索静脈瘤手術を受ける

2019年●
・手術後、一度休んだ治療を再開
ハジメさんの精子の運動率の数値が上がらず、卵子の状態もあまり良くなかったが、顕微授精にトライ。妊娠に至らず。
・クリニックを転院
それまでとは違う、自然周期・低刺激周期のクリニックへ。

2020年●
・採卵・・・採卵数を増やすための注射は打たず、服薬のみだったのでミホさんの体はラクに。
・初めての妊娠判定・・・「着床しています。数値も悪くありません」と言われ、周囲にも報告。
・稽留流産・・・10週目にして「心拍が確認できません」と宣告を受ける。
・コロナ禍でしばらく妊活を休む

2021年●
・妊活再スタート&採卵
ミホさん38歳。凍結卵もあったが、年齢を考えて採卵を勧められる。

・化学流産を繰り返す
血中のAMH値(卵巣に残っている卵子の数を反映できると考えられているホルモンの値)が43歳(実年齢+5歳)とわかる。
・「PGT-A」を勧められ「これが妊活の最後」と決めて申請
・1回目のPGTーAで状態の良い受精卵が確認でき、そのまま移植

2022年●
・妊娠判定
・10月、出産

フォーリンラブ ハジメさん夫婦のインタビュー<後編>では、泣いた……笑った!「妊活面白エピソード」についてお聞きしました。
ぜひ、ご覧ください!

●フォーリンラブ ハジメ Profile

フォーリンラブ ハジメさん

1984年生まれ。和歌山県出身。2007年、お笑いコンビ「フォーリンラブ」を結成。男女の恋愛模様をネタにした「イエス、フォーリンラブ!」の決め台詞で人気を得る。2010年、CX「お笑い芸人歌がうまい王座決定戦スペシャル」第18回大会で優勝。プライベートでは6年間の不妊治療を経て2022年10月に第一子が誕生。
自身のYouTubeでは趣味の釣りをメインとした「釣りハジメ」を配信。シロアリ駆除の会社を経営するなど多岐に渡り活躍中。

YouTubeで男性不妊について語っています

YouTubeチャンネル「釣りハジメ」より
YouTubeチャンネル「釣りハジメ」より

●用語解説/林 博 先生
●イラスト/ユリコフ カワヒロ
●取材·文/中島博子

※記事掲載の内容は2023年8月25日現在のものです。以降変更されることもありますので、ご了承ください。

▼『妊活たまごクラブ 初めての不妊治療クリニックガイド 2023-2024』は、妊活から一歩踏み出して、不妊治療を考え始めたら手に取ってほしい1冊。

 

この記事のキュレーター

妊娠・出産・育児の総合ブランド「たまひよ」。雑誌『妊活たまごクラブ』『たまごクラブ』『ひよこクラブ』を中心に、妊活・妊娠・出産・育児における情報・サービスを幅広く提供しています。

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