豪田トモ「新米パパが、本当の意味での【父親】になっていく過程」 〜命と家族について考えよう Vol.1〜

「子どもは親を選んで生まれてくる」という胎内記憶をモチーフに、4組の夫婦の物語を通して「自分たちが生まれてきた意味」や「家族の絆」「命の大切さ」「人とのつながり」を考えさせられるドキュメンタリー映画『うまれる』。シリーズ2作目『ずっと、いっしょ。』に続き、3作目に向けて動き出した豪田トモ監督は、現在、保育園に通う娘の育児に積極的に関わっている。そんな豪田監督に、ご自身の出産・育児経験も含めて、「命」や「家族」について語っていただきました。

ママとパパでは親になるスタート地点からして違う

イベントや講演などで、よく話をさせていただいているのですが、やっぱり男性というのは、本当の意味で“父親になる”には時間がかかるものなんです。

ママには、”母親になる”準備ができる大きな「転換点」が、4回もあるんです。まず「つわり」があって、その次に「胎動」。さらに「お腹が大きくなる」というのがあって、最後に「出産」があります。

明らかに身体的な変化があるわけです。そして半ば強制的にとでもいいますか、10か月という時をかけて少しずつ身体と共に心も母親になっていく準備ができるのです。

女性も「妊娠しましたよ」と言われてから「つわり」も「胎動」も「お腹が大きくなること」も「出産」もなく、10ヶ月も経ってから、いきなり「あなたのお子さんですよ」と言われても、「あたしはこの子のママなのよ!」とはなりにくい人もいらっしゃるのではないでしょうか?

ところが、男性の場合は妻が出産するまでは何の転換期もなく、いきなり父親にならなければならないといった感じです。母親は、段階を踏んで自然に親になれるけれども、父親はいわば“不自然な形”で親にならないといけないのです。

まず、そういった根本的な違いがあるということを、これからママになるみなさん、あるいはママになったばかりの人に、夫婦でうまく育児・子育てをするために知っておいていただきたいなあ、と思っています。

パパとママでは、親になるための準備がスタート地点からして大きく違うんですよね。

パパが気づいたときには、ママのほうが遙か彼方のずーっと先を進んでいるのです。しかも、ママはF1カーに乗ってものすごいスピードで爆走しているのに、パパはそのずっと後ろをママチャリにでも乗って追いかけているようなもの。どう頑張っても、追いつかないのです(笑)。

そんな感じだから、どんどん先を行くママに置いてきぼりをくらって、パパは育児に自信をなくす。「自分は子育てはあまり得意じゃないから、妻に任せておいたほうがいいのかな?」などと思ってしまうことが多いのではないでしょうか。

父親意識が芽生えるのは、出産後8か月くらい

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そんな感じだからこそ、父親意識が芽生えるのはママと比べるとかなり遅い。

これは僕の感覚のなかでの話ですが、周りの知人の話などから分析してみると、多くのパパに父親意識が芽生えるのは、平均すると子どもが生まれてから8か月くらいかかるのではないかと思っています。

妻が妊娠したということがわかった時点で、父親になったと思える人は、たぶん2〜3%しかいない。妊娠期間中に産院に一緒に行ったりするようになった段階でも、20〜30%でしょう。さらに、出産に立ち会ったところで、ようやく50〜60%くらいになるわけです。

その後、子どもと接する頻度にもよるとは思いますが、産後8か月くらいまでに子どもと接する機会が徐々に増えていくなかで、やっと大多数の男性に父親意識が芽生えていくようになるんじゃないかな、と思います。

なぜ8か月なのかと言いますと、生後8か月くらいになると、父親がやったことに赤ちゃんが反応してくれるようになる時期だからです。

そういう時期に、子どもと接してコミュニケーションを取れるようになったところで、やっと多くの人に父親意識が芽生えるようになるのではないかと思います。

パパが育児に関わろうと思っても、踏ん切りがつかない理由

パパは、親としての意識が芽生えるのが遅いからこそ、育児に対して積極的に取り組んだほうがいい。そう思って、僕は、娘が生まれてからすぐに育休を取ってみることにしました。

ところが、いざ育休を取ってみると現実には成果がわかりにくいことがあります。

育休を取得することによるネガティブな部分は、たやすく想像できます。たとえば、自分の仕事のキャリアへの影響であるとか、収入が減ってしまうとか……。やはり、まだまだ今の日本社会では育休を取得しにくい環境であることは間違いありません。

一方で、育休を取得することによるメリットと言えば、子どもと過ごす時間が増えるだとか、奥さんをサポートできるとか、何となくぼんやりとしたものでしかないんですよね(笑)。

ただ、どうやって奥さんをサポートできるのかと考えてみても、それもどこかぼんやりとしている。だからこそ、パパはなかなか育休を取得しようとは思えないし、育児に積極的に関ろうといった感じで踏ん切りを付けにくいというのがあるのではないでしょうか?

育休を取ってみてわかったこと

では、なかなか育児に積極的になろうと思えないパパたちはどうすればいいのか? ちょっと考え方を変えてみるといいと僕は思っているので、その話をしてみたいと思います。

断っておきますが、これは別に何か科学的に証明されたという話ではありません(笑)。ただ、もうすぐ6歳になる娘の子育てに関わってきた、僕の経験に基づくお話ではあります。

僕が続けているドキュメンタリー映画『うまれる』シリーズの第1作目が公開されたのは、今から6年前。その1作目の公開が始まって10日後くらいに娘が生まれました。僕自身、そんなに子育てが得意なほうではないだろうなと思っていましたし、父親として子どもと接する機会もあまり持てなさそうだったので、思い切って育休を取ってみることにしました。

ちょうど1作目が完成したばかりで、ひと仕事終わった頃です。タイミングとしては今しかないだろうということで、半年くらい仕事をかなり抑えるようにして娘と接する時間を増やしてみました。

いざ育児をやってみると、父親にできることもいくつかありますが、やはり男性は育児が苦手なんです(笑)。あくまでも一般論ではありますが、僕も含めて男性というのは女性と比べて脳の構造が全く違います。

男性特有の論理的であり、分析的な思考がどうしても働いてしまうのです。数字とかデータとか、やるべきリストがないと、なかなか行動できない生き物なんですよね。

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画像出典:映画「うまれる」(「子どもは親を選んで生まれてくる」という胎内記憶をモチーフに、4組の夫婦の物語を通して「自分たちが生まれてきた意味」や「家族の絆」「命の大切さ」「人とのつながり」を考えさせられるドキュメンタリー映画。豪田トモ氏が映画監督をてがける)

ママが“察して欲しい”という想いは、パパには届かない!?

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よくママは、パパに対して「察してくれ」と思うものでしょうけれど、実は男性というのは察することがかなり苦手な生き物です。

僕なんか、育休に入ったばかりの新米パパだった頃は、奥さんに「やって欲しいことをリストにまとめて、数字でください」と言っていたほどです(笑)。

たとえば、「コレとコレを○個買ってきて」とか、「○日までにコレをしてください」とか、「毎週火曜と金曜の朝にゴミを捨てて」「毎晩、夕食後は食器を洗って」などなど……。

なぜそうしたのかというと、たとえば「キッチンの洗い場が汚れているよね」と奥さんに言われても、男性は「そうだね、汚れているね」と言うだけで、「食器を洗ってね」という気持ちを察することまではできないパターンが圧倒的に多いわけです。もちろん、私もそうでした(笑)。

これは察してくれるだろうと思い、やって欲しいことをパパに対してハッキリ言わないでいると、多くの場合、残念ながらいつまでたってもやってくれません。

「やって欲しいことをパパにハッキリ伝える!」。これが結局、思い通りのサポートを受けられるポイントなので、ぜひ女性のみなさんには覚えていただければと思います。

パパが子育てをするのは、“超完全アウェー状態”

なぜ男性は“察する”ことが苦手なのか。

これも一般論ではありますが、男性は女性ほど右脳があまり発達していないからです。右脳が発達していないということは、感受性に乏しいということでもあるんですよね。

でも、男性でも赤ちゃんと接していると、何となく変わってくるものです。赤ちゃんというのは、当然言葉もわからないし、数字を並べてどうこうしようとしても無駄じゃないですか。もちろん、論理性もまったくありませんから。

僕ら男性にとって得意な分野、論理、データや数字というのは、赤ちゃんの前ではまったく役に立たないし通用しません。

多くの新米パパにとってみれば、赤ちゃんと接するということそのものが、“超完全アウェー状態”なんです(笑)。

そんなアウェー状態のなかで、新米パパは育児に奮闘することになりますが、奮闘する場数を踏むうちに、そんな僕らでもやり方が少しずつわかってくるようになるものなんです。

すると、僕ら男性が得意とする左脳を使った「パパならではの育児」もできるようになったり、僕らが苦手な感受性が養われていったりします。

ですから、出産後しばらくは産まれた子どもが第1子であれば、どんなパパでも新米なのです。(もちろん、ママもそうですが……)

苦手なアウェー状態のなか、孤軍奮闘しているんだということをママには理解していただきたいと思います。そうは見えない事も多いと思いますけどね(笑)。そして、温かい目で見てあげて欲しいですね。

その上で、どうやって夫婦でうまく子育てをしていくのかということを、一緒に考えていくといいのではないかと思います。

この記事のキュレーター

映画監督・豪田トモ(ごうだ とも)。1973年東京都生まれ。6年間のサラリーマン生活を経て、29歳でカナダのバンクーバーにわたり、4年間長年の夢だった映画製作の修行をする。帰国後、フリーランスの映像クリエイターとして、テレビ向けドキュメンタリーやプロモーション映像などを制作。2010年、「命の原点」を見つめて家族の絆や生きることを考えるドキュメンタリー映画『うまれる』が公開され、2014年、同シリーズ2作目となる『ずっと、いっしょ』も公開された。著書に『うまれる かけがえのない、あなたへ』(PHP出版)、『えらんでうまれてきたよ』(二見書房)がある。現在、6歳になる娘の父。映画『うまれる』公式サイト(http://www.umareru.jp/)

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