安藤哲也「家族にとっての“幸せのものさし”を探そう」〜夫婦で笑って育児を楽しむコツ Vol.4〜

「育児も仕事も人生も笑って楽しめる父親を増やす」ことを目的に、今から10年前の2006年に設立された、父親支援事業を行うNPO法人「ファザーリング・ジャパン」。その代表を務めている安藤哲也さんは、「夫婦でうまく育児をするために」といったテーマで、パパだけでなく、ママも含めた夫婦向けの「両親学級」として、数多くの講演を行っています。そんな安藤パパに、夫婦で笑って育児を楽しむためにはどうすればいいのか、そのコツについて自身の体験も交えつつ、語っていただきました。

4回目となる今回は、それぞれの家族にとっての“幸せのものさし”についてです。

家族にとっての“幸せのものさし”について話し合う

これだけイクメンという言葉が定着してきても、子育てはほぼママに任せっぱなしというパパは、まだまだ多いようです。仕事が忙しいからなのか、その気が最初からないのか、理由は人それぞれだとは思いますが、どちらにしろ、共通しているのは、“夫婦で子育てを楽しもう・乗り切ろうという感覚”が 薄いということだと思います。
  
親が働きづめで、常に疲れている状態で余裕がなくなってくると、子どもにしわ寄せが行きます。パパが仕事ばかりで家のことを放置していると「夫はちっとも育児に関心がない」「なんで私ばかりが」「子育てが辛い」などなど……。たいていが、こういった悪循環に陥りますよね。

そんな悪循環を断ち切るには、そろそろ“幸せのものさし”を変えないといけないと、私は考えています。今の時代、「お母さんがいれば子どもはちゃんと育つ」のではなく、それなりに子育ての「戦略」を話合う必要があります。

本来は、結婚する前に話合っておくべきことだとは思いますが、日本人のカップルというのは、そういう話をあまりにもしなさすぎだと思います。結婚することや子どもを産むことが、「ゴール」になってしまっていて、その先の育児については話し合わないままでスタートしてしまうので、「こんなはずじゃなかった」ということが起こりがちです。

目の前の「きょうの育児」は大変だし、これからもしばらく続く。でも子どもが成長して自立し、家を出ていくまで普通20年くらいかかるし、その後も夫婦の生活や自分の人生は続いていくわけです。

だからこそ、長い夫婦の人生を望遠鏡的な視点で捉えて、自分の家族にとっての幸せのものさしはどんなものなのか、ということを考え、二人で話し合っていくのはとても大事なこと。「遠く」の目標が見えてくると、いま目の前で起きていることの意味もよくわかるし、つまらないことでイライラしなくなる。私たち夫婦もそうやって成長してきたのだと思います。

ando_column3 写真:父親支援事業を行うNPO法人「ファザーリング・ジャパン」のイベントにて

子育てはマニュアル通りにはいかない

ここ近年、パパになるための準備を頑張るパパが少しずつ増えています。産院の定期検診にもちゃんと付き添ったり、両親学級のような講義に参加する人が増えました。10年前とは格段に男性の意識が上向いているのは間違いありません。

ただ、逆にいろいろ知識を詰め込んでいるものだから、頭デッカチになっちゃって、妙に自信過剰になっているプレパパも見かけるんですよね(笑)。そういうパパには、「実際の子育てって、そんなにマニュアル通りにはいかないからね」と、優しく声をかけるようにしています。

とはいえ、まだ育児をやったことがないプレパパに口酸っぱく忠告しても、わかるハズもありません。「とりあえず、半年くらい育児をやってみて、悩むようなことがあったら、またセミナーにおいで」と言っています(笑)。

やはり、育児というのは、実際にやってみないとわからないことがたくさんありますから。それはママも同じですよね。特に一人目は、ね。

子どもが1歳だったらパパもママも1歳です。日々、失敗を繰り返しながら、子どもと一緒に親として成長するものなのです。

男性も子どもが産まれる前から、いろんな情報を得ておくことはいいことですが、マニュアル通りにいくものではないということ、ママだって上手くできないこともあるのだ、ということを忘れないでいて欲しいと思います。

産後も働きたいママへアドバイス

これからは、女性も子育てをしながら働くといったことが、さらに当たり前の社会になっていくでしょう。自分も産後は職場復帰して働きたいと思っているのであれば、保育園の問題であるとか、復帰後の夫婦間での育児や家事を含めた協力体制をどうするのかといったことは、出産前にシッカリ、夫と話合っておくべきでしょう。

検討すべきことは山ほどあって、すべて想定通りにはいかないとは思いますが、ある程度はプランを立てて、意識レベルでは夫婦で合わせておいたほうがスムーズに子育てがスタートできます。

やはり、最初にこういった夫婦間のコンセンサスがないと、パパが会社の仕事量をかなり減らすといったことでもない限り、結局、ママのほうにばかり負荷がかかってしまいます。

そして、1人目は何とか乗り越えられたけれども、2人目が産まれると、仕事と育児の両立が回らなくなってしまうことが多いのです。とうとう、ママのほうが仕事を辞めざるを得なくなったという話はよく聞きます。そのあたりは、まさに、“女性活躍の壁”ですし、パパにとっても、もったいない話なのです。

私の家も共働き家庭です。育休こそ取得はしませんでしたが、保育園の送り迎えはすべてやり、できる範囲で、なるべく家事も私がやるようにしたので、18年経った今でも妻は仕事を続けることができています。そうすると、二人で稼いでますから家計所得も増えますし、そのお陰で私一人が懸命に働かなくてよくなりましたし、父親として3人の子育てを楽しむことができたのだと思います。

今、ファザーリング・ジャパンの家庭では、子どもが3〜4人いるのは当たり前といった感じです。彼らには、ずっと「子育ての戦略を持て」「幸せのものさしを変えよう」と教えてきました。

時間はかかりましたが、それが上手く回り始めて、今では、子育てが「楽しい」と感じている父親が増えてきました。そんな先輩や仲間がたくさんいる環境があると、新しく入ってきたパパたちも 自然と「自分もできそうだ」という感じになっていって、不思議とみんなが子だくさんの家庭を楽しく築けるようになるものなのかもしれないな、と感じています。

もちろん、1人だろうが、3人だろうが、子育ては大変だし、子どもの成長で感じる幸せに変わりはありません。それぞれの家庭が、それぞれの「幸せのものさし」は何なのかを探しつつ、それぞれの子育てを楽しめばいいのだと思います。

この記事のキュレーター

NPO法人ファザーリング・ジャパン設立者・代表理事&NPO法人タイガーマスク基金代表理事・1962年東京都生まれ。二男一女のパパ。「笑っている父親を増やしたい」と、年間200回以上の講演や企業セミナーのほか、絵本と音楽を融合させた絵本ライブ「パパ ’s絵本プロジェクト」などで全国をパワフルに飛び回る。厚労省「イクメンプロジェクト推進チーム」や東京都「子育て応援とうきょう会議」などの委員も務める。『父親を嫌っていた僕が「笑顔のパパ」になれた理由』、『パパの極意から仕事も育児も楽しむ生き方』、『パパ1年生』など著書多数。


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