安藤哲也「夫婦協働の子育てを成功させるためにやっておくべきこと」〜夫婦で笑って育児を楽しむコツ Vol.3〜

「育児も仕事も人生も笑って楽しめる父親を増やす」ことを目的に、今から10年前の2006年に設立された、父親支援事業を行うNPO法人「ファザーリング・ジャパン」。その代表を務めている安藤哲也さんは、「夫婦でうまく育児をするために」といったテーマで、パパだけでなく、ママも含めた夫婦向けの「両親学級」として、数多くの講演を行っています。そんな安藤パパに、夫婦で笑って育児を楽しむためにはどうすればいいのか、そのコツについて自身の体験も交えつつ、語っていただきました。

3回目となる今回は、夫婦協働の子育てを成功させるためにやっておくべきことについて、です。

“子育て”ではなく、“子育ち”の環境を整える

出産を終えたばかりのママからよく聞かれるのは、「どうすれば、イラつかないでパパに積極的に子育てを手伝ってもらえるようにできるのか?」という質問です。

その際、私はいつも「目の前のことをやってくれた、やってくれないといった話ではなく、長期的に見てください」とお答えしています。子育てというのは、20年前後、わが子が家を出てひとり立ちするまでの長期にわたるものなんですから。

さて、私は実は「子育て」という言葉はあまり好きではないんです。

なんだか、「子育て」と言った瞬間に、パパの子育て、ママの子育てといった感じで、親側が主語になってしまうんだけれども、本来、子育ての主役というのは、子どもです。「子どもが、どう育つか」ということなんです。 子どもがどう育って、どう自立し、社会でいかに活躍できる人材になれるのかというのが、子育ての最終的なゴールです。だからこそ、「子育て」というよりも、「子育ち」

というほうがシックリくるのではないかと、私は思っています。

なので、私は、親にとっての最大の仕事とは、子どもが育つための“子育ちの環境”を、よりよくすること、また、その子育ちの環境をうまく整えるという大仕事こそ、特にパパが頑張るべきことなのではないかとも考えています。

パパの大きな役割とは!?

おふろに入れたり、オムツを替えたり、保育園の送り迎えといったことは、目の前の仕事と言いますか、すべて子育ちのための“日常的な作業”にすぎません。それよりも、もっと大事にして見るようにしないといけないのは、わが子の成長なんです。

それでは、わが子の子育ちの環境を整えるために何が必要なのか。

それは、「望遠鏡的な視点」です。 わが子の成長、年齢に合わせて、その時期なりの役割というというか、パパならではの仕事をしようというのが、私の考え方です。

もちろん、産後すぐは、ママはなかなか動けないですから、まずは、少しでもママと同じくらいにいろんなベビーケアができるように努力してみるのがいいでしょう。

そして、それも大事なことですが、子どもが卒乳してよく動き回って遊ぶようになってきた頃には、ママとは違うところで力を発揮できるようにしておくのが、パパの大きな役割だと思います。

子どもというのは、3歳くらいになると、もう、好奇心の塊のような存在です(笑)。何かを見つけると、パッと走って行ったりしてしまうのですが、そういう時に事故に遭わないようにしっかり手をつないであげるとか。

それはママでもできることではありますが、夫婦揃っている場合は、パパが率先してやるべきです。子どもが走るのが速くなるほど、パパのダッシュ力は役に立つハズです(笑)。

そして、小学校に上がったら、徐々に手を離していってもいい時期になってくるのですが、小学校生活というのは、なかなか親からは見えにくいものになります。 どういうクラスなのか、どういう友だちと遊んでいるのか、今、何に夢中になっているのか、そういったことを常に子どもに目をかけるようにしておくことも大事になってきます。

もっと言えば、思春期になったら、子どもからすると親というのはうっとうしい存在になってしまうものなので、適度な距離感を保ちつつ、“心だけ繋いでおく”ような関係を、子どもが幼い頃から築いておく。 その頃になると、親は、わが子を信頼して育つのを待つといいますか、そっと見守るという姿勢が必要となってくるのです。これが、大学1年、高校1年の娘、そして、小学校2年の息子と、3人の子育ち環境を整える仕事をしてきた私の経験から言えることです。

さて、あくまでも一般論的な話ですが、望遠鏡的な視点がパパは得意です。ママはどちらかというと、顕微鏡的な視点が得意というのがあると思います。今日のごはんとか、明日着るものだとか、要するにマイクロマネジメントが得意なのです。

一方、パパはある意味、多くの家庭では経営者であり、家庭のトップでもあります。経営という話で言えば、やはり、3年後とか5年後とか、そこに照準を合わせて考えるものですよね。

家庭の経営者として、中長期的な戦略を立てるために、望遠鏡的な視点を持つことは、とても重要なのです。

安藤哲也コラム3回目

産後は、ママが笑顔でいることが大事!

産後すぐの0〜1歳の時期というのは、ママは子どもと一緒にいる時間がパパより圧倒的に多いことでしょう。だからこそ、この時期というのは、ママが笑顔でいることが大事です。

ママが子育てに疲れないようにしてあげるというのも、パパの大きな役割です。常に、母親として自己肯定感を高く保っていてもらえる環境を整えてあげるといったことです。 もちろん、パパが日常的にできるだけ子育てをやるべきですが、もし、それがなかなかできないというのであれば、なおさら、パパはママの精神的なケアを積極的にやるべきです。

何回、オムツ交換をしたとか、お皿を洗ったとか、そういうことをアピールするのではなく、違う仕事があるのです。 いろいろとママたちの意識調査を見てみると、多くのママたちが思っているのは、家事や育児を頑張ることよりも、「育児を頑張っている私を認めて欲しい」「褒めて欲しい」「育児の大変さを理解して欲しい」といった思いが強いようです。

ところが、これもまた一般論にはなりますが、多くのパパは、そういった部分でのママへのケアが苦手なんですよね(笑)。

普段、会社ではソリューションなどと言っては、仕事でいろんな問題を解決したりしているのですが、子育てにおいてはその力がナゼか家庭では発揮されていない。なぜ、そうなるのかというと、育児は仕事ではなく、“営み”だからです。 仕事ではない、営みのなかの子育てに関しても、パパが仕事並みに力を発揮してくれるようになると、ママへの精神的なケアもうまくいこうようになるでしょう。

子育ての戦略を夫婦で立てよう

といっても、この話をすぐに理解してくれるパパはとても少ないのが現状。 そこで、ママたちに私から言いたいのは、パパがなかなか精神的なケアをしてくれない、わかってくれないと思っても、すぐに諦めないで欲しいということです。

「もう、夫はいないものとして子育てをやっています!」とか、「夫はATMですから……」などと、早々にパパに見切りを付けてしまうママがけっこういるのですが、そう言い放ってしまう時点で、もはや、家族ではなくなってしまいます。

思い返してみれば、誰かに押しつけられて結婚した相手というワケでもないのですから、もう1回、チームとしてどういう育児をしたいのかといったことをちゃんと話合ってみるのがいいでしょう。

サッカーで言えば、どういうサッカーがしたいのか話合い、そのためにどういう戦略でいけばいいのかなどなど……。子育てがうまくいっていない夫婦を見ていると、何となく結婚して、何となく育児をしているといった人が何と多いことか……。

そんなことを言うと、「ウチはそうじゃない!」と否定するけれども、戦略性をあまり感じない家庭をこれまでにも私はたくさん見てきました。

夫婦で一緒になって、家族や子育てについて戦略を立てることで、子育てという協働作業がうまくいくようになるんだと思いますね。

子育て戦略は、軸になる部分から

それでは、子育てや家族の戦略はどう立てていくのかという話ですが、目の前の子育てをすることにばかり一生懸命になっていてはいけません。 こういうモノを買ったほうがいいのではないかとか、こういう教育を受けさせたほうがいいんじゃないかといったことも大事ですが、重要なポイントではありません。 それは、あくまでも、子育てにおけるツールの話です。

そもそも、子育てというのは、「わが子をどういう子どもに育てたいのか」「どういう家庭・家族にしたいのか」といったシッカリとした軸がないと成り立ちません。

枝葉末節のことばかりを、話し合っていたら、無駄が多くなってしまいます。しかも、子育ては成果がすぐに出るというものではありません。まずは、軸になる部分をしっかり考えていくことから始めるのがいいでしょう。

昨今のママやパパというのは、偏差値世代と言いますか、マニュアル世代でもあるので、どこか数値化されたものに振り回されすぎなのではないかと感じることが多いですね。「顕微鏡的な視点」で子育てを捉えてしまっているように見えます。

そこで、わが子が自分の理想通りになっていないとなると、ものすごく嫌な上司的な存在になってしまってしまう。わが子の評価を下げてしまったり、否定や禁止、命令的なことしか言わないような親になってしまうのです。

その悪循環が続いてしまうと、虐待に繋がりかねません。 子どもは誰でも無限大の可能性を持っています。

能力がないというわけでもないのに、ひたすら親の理想にはめ込もうとしてしまうと、子どもというのは、あらゆることに対するモチベーションが下がってしまうものです。

そうなると、親が願う成長とはまったく違う方向に行ってしまうのです。 これは経験談ですが、私は子どもに何かやりなさいと命令的に言ったりしたことはほとんどありません。なぜなら、子どもの力を信用して、親は子どものやりたいことを応援しつつ、その環境をうまく作ってあげることが一番、大切な仕事だと思っているからです。

産後すぐのママたちにとっては、少し先の話になるのかもしれませんが、子どもの成長と共にこういったこともあるのだとわかった上で、夫婦で子育ての戦略の軸になる話を一度、ジックリしてみて欲しいですね。こういった話は、早い段階でしておいたほうがいいと思います。

この記事のキュレーター

NPO法人ファザーリング・ジャパン設立者・代表理事&NPO法人タイガーマスク基金代表理事・1962年東京都生まれ。二男一女のパパ。「笑っている父親を増やしたい」と、年間200回以上の講演や企業セミナーのほか、絵本と音楽を融合させた絵本ライブ「パパ ’s絵本プロジェクト」などで全国をパワフルに飛び回る。厚労省「イクメンプロジェクト推進チーム」や東京都「子育て応援とうきょう会議」などの委員も務める。『父親を嫌っていた僕が「笑顔のパパ」になれた理由』、『パパの極意から仕事も育児も楽しむ生き方』、『パパ1年生』など著書多数。


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