安藤哲也「イライラしないで、夫を“パパとして育てよう”という感覚が大事」〜夫婦で笑って育児を楽しむコツ Vol.2〜

「育児も仕事も人生も笑って楽しめる父親を増やす」ことを目的に、今から10年前の2006年に設立された、父親支援事業を行うNPO法人「ファザーリング・ジャパン」。その代表を務めている安藤哲也さんは、「夫婦でうまく育児をするために」といったテーマで、パパだけでなく、ママも含めた夫婦向けの「両親学級」として、数多くの講演を行っています。そんな安藤パパに、夫婦で笑って育児を楽しむためにはどうすればいいのか、そのコツについて自身の体験も交えつつ、語っていただきました。

2回目となる今回は、パパが育児に参加してくれるようになってもらうための初歩的なポイントについて、です。

夫婦でうまく育児するために、パパも毎日、練習する

私は、親になったばかりのママたちから、「夫婦でうまく子育てをするにはどうすればいいのか」といったことを、よく聞かれます。その質問に関しては、必ず、こう答えます。

「ママだけじゃなく、パパも毎日、育児をすること」と。

勉強やスポーツと同じです。毎日、練習するから、うまくなったり、成績が上がったりする。 女性はママになったら、当たり前のように毎日、子育てをするわけじゃないですか。だから、グングン、ママとして成長する。

ところが、多くのパパは、スポット的にしかやらないんですよね。 たまに仕事から早く帰って来ることができるときだけ、お風呂に入れるとか、週末にちょこっと公園などで遊ぶとか……。

それでは、なかなか、本当の意味での子育ての戦力にはなりません。 なぜなら、子育てがうまくできるかどうかというのは、能力の問題というよりも、頻度、あるいは練習回数の違いによるからです。

よく、新米パパで「僕は育児がヘタだから……」とか、「育児に向いてないから……」などと、言い訳をする人がいますが、それは練習回数が少ないだけなんですよね。

どれだけ抱っこしたのか、どれだけオムツを替えたのかなど、育児に関する回数の実績に比例しているものだと思います。

 

新米ママ&パパが陥りがちなパターンとは!?

私が新米パパに最初にアドバイスするのは、「おっぱいが出ないぶん、パパはできるだけ”抱っこ”をしなさい」ということです。

パパはママに比べると、圧倒的に子どもとのスキンシップが少ないし、おっぱいも出ないのだから、方法はコレしかないんです(笑)。

たくさん抱っこすることで、赤ちゃんはパパの匂いとか声などを識別するようになっていって、やがて馴染んでくれます。

だからこそ、たくさん抱っこしたパパほど、新米パパにとっての最初の大きな壁である、夜泣きの対応や寝かしつけといったことも何とか乗り越えられるようになるのです。

子どもが起きている時間にはタマにしか帰ってこないパパが、たまに抱っこするだけでは、赤ちゃんは自分のパパであるとなかなか認識できません。

それどころか、逆に緊張してしまうでしょう。 スキンシップが足りないだけなのに、「やっぱり、オレは向いてないね。ママのほうがうまいから」となってしまい、ママはママで「私がやっちゃったほうが早い」ということになってしまう。

それでは、新米パパはいつまでたってもパパとして成長できません。これが、新米ママ&パパが陥りがちなパターンのひとつだと思います。

もちろん、最初からスーパーイクメンになれる人なんていないのですから、向上心を持って、夫婦協働の子育て戦力になれるような努力をすべきでしょう。

「自分は向いていない」とだけ思ってしまって、薄々、自分がわが子と接していないだけだと気づいているのに、気づかないフリをする新米パパを、私はたくさん見てきましたからね(笑)。

その状態のままでいると、だんだん、夫婦仲も悪くなってしまいます。長引けば長引くほど、夫婦関係は修復が難しくなってしまいます。

親子関係にも影響が出てきます。子どもは、成長とともにいろいろなことがわかる、ようになってきますから。

そういう時に、「パパはタマにいる人」といった感じになってしまうのでは、「なんともったいないことを」しているんだろう」と、私はいつも思ってしまうのです。

 

今の時代、自分の父親モデルは通用しない!?

多くの新米パパに話を聞いてみると、やはり、古い父親としての役割分担に囚われてしまっている人が多いようです。

そういうパパに限って、3歳くらいまでは、「何をしていいのかわからない」だとか、「パパには子育てにおいて出番がない」と思ってしまっているんです。

なぜ、そうなるのかというと、人間って、自分が父親にしてもらったことなんて、3歳以降くらいにならないと覚えていないじゃないですか。

キャッチボールを一緒にしたとか、自転車の練習で後ろから押してもらったとか、釣りに行った、あるいは、花火大会連れ行ってもらったとか……。

実は、私もそうだったのですが、「自分が父親にしてもらったことで、覚えていることをやればいいや!」って、なってしまうわけですよ。

なので、3歳になるくらいまでは、ママに任せておいて、自分は仕事をして稼げばいいやっていうのが、育児になかなか協力的になれないパパの典型的なパターンなのです。

多くのパパは、自分のなかにある“父親モデル”をそのまま踏襲すればいいと思っているのですが、自分が幼い頃と今では時代が違います。

自分が子どもの頃は、専業主婦のママが圧倒的に多く、同居しているおばあちゃんもいた。 しかし、これだけ共働き家庭が増えてきて、時代が変わってしまったのです。

だから、特に共働き家庭の場合であれば、自分の父親モデルを変えるために、もっと学びの機会を持つようにしていかないといけないのだと、思います。 ando_column2 写真:Fathering Japanにて提唱する、「イクボスプロジェクト」を説明する安藤さん。「イクボス」とは、職場で共に働く部下・スタッフのワークライフバランス(仕事と生活の両立)を考え、その人のキャリアと人生を応援しながら、組織の業績も結果を出しつつ、自らも仕事と私生活を楽しむことができる上司(経営者・管理職)像のこと。

 

夫をパパとして育てようという感覚が必要

子育ては、クルマの教習に例えてみるといいでしょう。 要するに、ママは子どもが産まれるまでに何回も教習所に通って勉強もしている。そして、出産を終えると、すぐにママとして育児を始めます。

ところが、パパは子どもが産まれた後に慌てて教習所に申込みに行って、シュミレーターを経験しただけで、いきなり高速を走りなさいと言われているようなものです(笑)。

いつも、私はこの例え話をした後に、「そんなの事故るに決まってんじゃん!」って言うんですけどね(笑)。

最近では、いろいろ勉強して準備をする新米パパも増えてきましたが、それでも、やはり多くのパパは何の基礎もルールも勉強していないのだから、無理もありません。

やはり、普通に公道をクルマで走れるようになるには、それなりに何十時間も練習を積まないとダメ。それは、子育てにおいてもまったく一緒なんです。

最近は「揺さぶられっ子症候群」なんていう言葉を聞きます。 生後6か月以内の赤ちゃんは、脳が未発達なので、強くゆさぶられると損傷を受けやすい。何も知らない新米パパが、赤ちゃんがなかなか寝ないので、つい、イライラしてしまって、やってしまうといったケースがよくあるのですが、そういうことをちゃんと教えてあげられる機会を作っていかないといけないと思います。

また、ママにも言っておきたいことがあります。それは、「パパの未熟さにイライラしないで欲しい」ということです。

本人は一生懸命やっているつもりでも、どうしてもママからすると、まだまだ使えない新入社員のように見えてしまって、つい、上から目線で見てしまいがちです。

ママとパパでは、達成できるレベルに差があるので、イライラする気持ちもわからないではありません。

しかし、例えば、ワーママであれば、会社ではいちいちイライラすることなく、新入社員にはちゃんと教えて育てているのではないでしょうか? ママからすると、ちょっと面倒くさいことなのかもしれませんが、新入社員の教育をしているつもりになって、やさしく見守って教えてあげるようにしてみるといいと思います。

ファザーリング・ジャパンに参加するようなパパだと、普通に育休も取得して、自分で育児を積極的に学んでいこうとするからいいのですが、多くのパパがまだまだ消極的です。

そういうタイプのパパであれば、やはり、ママが夫を“パパとして育てよう”といった感覚を持つようにしないといけないと思います。

なぜならば、子どもと接する回数も時間も少ないままで、自ら改善しようとする意志が見えないのであれば、どれだけ本人の自発的な成長を期待してみたところで、どうにもなりません。

そこは、やはり、ママがうまく育てようという意識を持つようにしたほうが早いと言えるでしょう。

この記事のキュレーター

NPO法人ファザーリング・ジャパン設立者・代表理事&NPO法人タイガーマスク基金代表理事・1962年東京都生まれ。二男一女のパパ。「笑っている父親を増やしたい」と、年間200回以上の講演や企業セミナーのほか、絵本と音楽を融合させた絵本ライブ「パパ ’s絵本プロジェクト」などで全国をパワフルに飛び回る。厚労省「イクメンプロジェクト推進チーム」や東京都「子育て応援とうきょう会議」などの委員も務める。『父親を嫌っていた僕が「笑顔のパパ」になれた理由』、『パパの極意から仕事も育児も楽しむ生き方』、『パパ1年生』など著書多数。


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