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「少子化」が止まらないのはなぜ? 生殖医療専門医×出産ジャーナリストCROSSTALK
※写真はイメージです
Image Source/gettyimages
妊活と仕事の両立、卵子凍結、出産費用の保険適用など、これから結婚や妊娠を考える2人にとって気になる話題をクローズアップ!
今回のテーマは、「少子化」について。
不妊治療の最前線で活躍するドクター・市山卓彦先生と、妊娠・出産の現場を見つめ続けるジャーナリスト・河合 蘭さんに、妊活の“今”と“これから”について語り合っていただきました。
『生殖医療専門医×出産ジャーナリストCROSSTALK 「少子化」が止まらないのはなぜ?』 #3
※参考:「妊活たまごクラブ 2024-2025年版」
監修の先生
市山卓彦 先生
PROFILE:生殖医療専門医・産婦人科医。東京・恵比寿の不妊治療専門クリニック「トーチクリニック」院長。2012年から順天堂大学産婦人科にて周産期救急を中心に研鑽を重ねた後、2016年より不妊治療施設セントマザー産婦人科医院で不妊の臨床及び研究に従事。順天堂浦安病院不妊センター副センター長を経て、2022年に開業。良質な医療を提供することはもちろん、患者に寄り添った治療計画を立案している。 ●トーチクリニック https://torch.clinic
河合蘭 さん
PROFILE:出産ジャーナリスト。1986年より妊娠、出産、不妊治療に関する取材・執筆活動をスタート。雑誌や新聞、WEBなどで多数執筆。東京医科歯科大学、聖心女子大学などで非常勤講師も務める。2016年、著書『出生前診断-出産ジャーナリストが見つめた現状と未来』(朝日新書)で科学ジャーナリスト賞を受賞。その他の著書に『未妊-「産む」と決められない』(NHK出版)、『卵子老化の真実』(文春新書)など。 http://www.kawairan.com
「子どもはいらない」未婚男女が増加中
――不妊治療支援は充実してきているのに、少子化は進む一方です。
■市山卓彦先生(以下、市山):原因は婚姻数が減っていること、そして赤ちゃんが欲しいと思っている人が減っていることだと思います。2021年の結婚と出産に関する全国調査(※1)では、「子どもはいらない」と考えている未婚男女が1割を超えているんです。
■河合 蘭さん(以下、河合):若い世代が結婚しても子どもを持ちたくないと考える理由は経済的な不安でしょうか。
■市山:そうですね。「お金がないから」がいちばんの理由だと思います。
■河合:お金をかけて育ててもらった世代ですから。人は自分が親にしてもらったのと同じように、またはそれ以上に子どもにしてあげたいと思うものです。そう考えると「子どもは持てない」という結論に。
■市山:40歳になって来院した患者さんからは「妊娠することがこんなに難しいとは知らなかった」という声を聞きます。キャリアを積み、お金に余裕がある女性は結婚が後回しになり、子どもが欲しいと思っても簡単にはできない。そして、そもそも子どもはいらないと考える人も増えている。その両軸が少子化を進行させているような気がします。
■河合:結婚しないでキャリアを積んでいる女性たちからよく聞くのは、「私はキャリアを積みたいから産んでいないのではなくて、産んでいないからキャリアを積んでいるのだ」という言葉。まわりからはキャリア優先だと見られているけれど、自分としては何年も前から産んでもいいと思っている、と。あとは「結婚したくても相手がいない」という人もすごく多いですね。
■市山:僕は、本質は恋をすることだと思うんです。産婦人科医が何を言っているんだと思われるかもしれませんが(笑)。コロナ禍で出会いの場が一気になくなり、恋をする機会が減ってしまったのが婚姻数減少の本質的な原因だと思うから。
■河合:でも、そもそも恋をするのが面倒という人もいると思います。
■市山:たしかに、前述の調査では未婚者の3人に1人が交際を望んでいない。データでは6割の男女が異性との交際経験があるということですが、逆にいえば4割に交際経験がないということ。そりゃ、子どもの数も減るよねという感じです。
■河合:今の時代は、男女交際以外で満たされる手段がいくらでもありますからね。
■市山:SNSで何となく人とつながっている感覚が常にある、というのも大きいかもしれません。
■河合:私たちが生み出してきた便利なもの、お金になるものが、恋愛の代わりをしてくれる……。
■市山:寂しい話ですよね。
――2022年の出生率は1.26で過去最低です(※2)。
■市山:これを改善するためには並大抵の施策ではうまくいきません。人口を増やすためには、配偶者でなくてもパートナーを持てる制度設計をし、子どもの福祉を守るために国や自治体、そして社会がどういう形でサポートしていくか、議論していく必要があると思います。
■河合:現在は出産費用の保険適用について議論が進められていますね。
■市山:そもそも、出産費用を保険適用にするべきかどうか。「保険適用になったから出産しよう」という人は、おそらくあまりいないと思います。そして、もし保険適用された場合、医療機関の経営が成り立たなくなって分娩をやめる施設が増える可能性もある。かえって患者さんがいい医療サービスを受けられる環境がなくなってしまうことを産婦人科医はみんな危惧しています。
■河合:日本産科婦人科学会は、出産費用の保険適用に関しては検討委員会を立ち上げています。大事なのは制度設計。国は2024年春、全国の出産施設の提供サービスの詳細と費用が見えるウェブサイトを立ち上げます。妊婦さんが出産施設を探すときに役立ちますし、国もこれで出産施設がどんなに大変なことをしているかがわかるようになるだろうと期待しています。
※1 国立社会保障・人口問題研究所「第16回出生動向基本調査(結婚と出産に関する全国調査)」
※2 厚生労働省「令和4(2022)年 人口動態統計(確定数)」
市山先生コメント
【Check!】“異次元の少子化対策”の一環「出産費用の保険適用」はどうなる?
2023年4月から、出産育児一時金が42万円から50万円に引き上げられました。しかし、出産費用には地域や医療機関によって大きな格差が。とくに出生率が低い東京都は高額で、今後さらに上がっていくことが予想されます。そこで政府が表明したのが「出産費用の保険適用」。これまで長らく、帝王切開や吸引分娩を除く正常分娩は病気ではないとして保険診療の対象外でしたが、保険適用が実現すれば妊産婦の経済的負担が軽減され、お金の心配をせずに出産できるようになります。政府は2024年春から、全国の出産施設の費用と提供サービスをウェブ上で「見える化」し、その後に保険適用を進める方針。2026年度をめどに、実現に向けて議論されています。
■監修
●構成・文/本木頼子
●デザイン/池田和子(胡桃ヶ谷デザイン室)
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