【妊活とキャリア】山口真由さん「卵子凍結」という選択をして見えたもの

将来の妊娠・出産に備え、若い状態の卵子を凍結して保存しておく「卵子凍結」という選択肢があります。
日本でも関心が高まってきているもののまだ社会的認知が十分ではないのが現状。そんななか将来の妊活を見据えて「卵子凍結」に踏み切りその経験を公表した山口真由さんに、妊活たまごクラブがお話を伺いました。
「自分だったらどうするのか?」を考えるインタビューです。

※インタビュー本文はあくまでも個人の体験です。疑問やご不安がある場合は、ぜひ産婦人科医師に相談してみてください。
※インタビュー本文中に出てくる卵子凍結の流れやデータ、数字はクリニックによって異なります。

『山口真由さん、「卵子凍結」という選択をして見えたものは何ですか?』
※参考:「妊活たまごクラブ 2023-2024年版」

【Q】山口真由さん、「卵子凍結」という選択をして見えたものは何ですか?

【A】私には選択肢があり、自分の人生を主体的に生きていると思えるように。それが心を強くしています。

卵巣年齢50才。卵子凍結以外に選択肢がない

「私が未婚ということもあり、これまでは子どもを持つことについて聞かれることはあまりありませんでした。テレビなどでは40代になって子どもを持つ人の話題が取り上げられることもあるので、私も当然のことながら40才になってもまだ自分の子どもを持てるんだと思い込んでいたフシがあります」

――信州大学特任教授でニューヨーク州弁護士でもある山口真由さんは、過去の自分をそう振り返ります。その意識が変わったのは3年ほど前、36才のときでした。

「友人との会話のなかで、海外の卵子凍結事情の話題が出ました。そのときふと、自分の卵子を調べてみようと思ったんです。実際にクリニックに行って検査を受けてみたら、私はAMH(※抗ミュラー管ホルモン)という値がとても低いという結果が出ました。医師から告げられたのは『卵巣年齢50才です』。その言葉に大きな衝撃を受けました。このままいったら結婚しないかもしれない、子どもを持たないかもしれないと自分でも薄々思っていたけれど、それを突きつけられることなんてなかったから。自分に残された生殖可能な期間は思ったより短いんじゃないかと、あせりを感じました。
当時はおつき合いしているパートナーもいなかったし、どう頑張っても子どもは1人でできるものではない。今よりも卵巣の状態がよくなることはないわけだから、今の状態で卵子を凍結保存しておこうかな……そう思ったんです」

――自分が納得できるよう、いろいろなセミナーにも参加しました。

「セミナーを3つ4つ回って感じたのは、クリニック側が卵子凍結後の実績をほとんど公表していないということ。日本では卵子凍結が“お守り”みたいになってしまっている要素があって、凍結した卵子を実際に使っている人が少ないのではないかと思いました。その点が気になって質問したら、『3分の1くらいの人が子どもを持てています』との答え。そこに疑問がないわけではなかったのですが、卵子凍結以外に選択肢がないというのが実状だったので、やってみようと決断しました」

仕事をしながら採卵するのは大変!

――とはいえ、卵子凍結は簡単なことではありません。1度の排卵で卵子を複数採取するために、不妊治療と同様の卵巣刺激を行いました。

「最初に行ったクリニックでは『高刺激をしたら閉経します』と言われたのですが、次のクリニックでは『高刺激をしましょう』と。『クリニックごとにそんなに違っていいのかな?』という疑問もありましたが、それを聞ける雰囲気でもなく、いわゆる標準治療というものが見えにくいなと思いました。
排卵日がわからず、講演会の日程に重なってしまうことも。クリニックで『この日は仕事があるので、どうしても早く出たいんです』とお願いすると、医師から『じゃあ今回の採卵のプロセスはなしにしますか?』とか『そんなに言うなら無麻酔でやりますよ』とか言われて。無麻酔で採卵するのはかまわないけれど、『どうしてこんな言われ方をしなきゃいけないんだ』と、すごく傷つきました。仕事をしながら採卵をするのは本当に大変。不妊治療を契機として仕事をセーブする女性がいる理由がよくわかりました」

【Q】「いつか子どもを持ちたい」と考えている女性が後悔しないために20代30代のうちに考えておくべきことはありますか?

【A】子どもが何人欲しいのか、そのためには何才から妊活を始めればいいのか。選択肢があるうちにプランを立てて。

キャリアとライフをどう両立するかは、女性にとって大きな課題。
山口さんに聞くと「20代30代は男性と同様に、がむしゃらに働いてキャリアを形成する時期。でも、仕事は男女平等にできても生殖年齢には圧倒的な差があるのだということを認識しておくべきです。そのうえで子どもが何人欲しいのか考えて、そのためには何才から妊活を始めればいいのか知っておくこと。私みたいに35才を過ぎてからあせっても、自分にできることは少ないですから」との答えが返ってきました。

努力ではどうにもならないことがある

――山口さんには同居する妹がいます。1才半違いで、当時30代半ば。「姉の卵巣年齢が50才ならば妹も同じようなものだろう」と、一緒に卵子凍結をすることにしました。ところが、あるときの採卵で山口さんは1個、妹は20個近くと、結果に大きな差が出ることも……。

「同じように生きてきて、決して妹のほうが生活習慣が整っているというわけでもなかったので、不公平なんじゃないかという気持ちになりました。不妊治療をしている人もそうだと思いますが、『あの人は何個採れた』『私は採れない』と、四六時中そのことしか考えられなくなって、ある種の嫉妬心みたいなものが湧いてくるんですね。注射まで打っているのに効かないなんてどういうことだという憤り。自分の女性としての機能が衰えていることに対する恐怖。妹は若い頃から生理痛がひどくて、ピルを長く飲んでいたのですが、『もしかしたらピルのおかげで卵巣の年齢が保たれていたのかも。私も過去に戻れたらピルを飲みたい』なんて思ったりしたことも。
排卵の周期ごとに一喜一憂して、取り返しのつかない過去のことを延々と考えては自分を責めるといった、非常に不健全な思考プロセスに陥ってしまっていました」

――結局、山口さんは5回の採卵で15個の卵子を採取、凍結保存しました。

「いろんなデータを調べてみると、私の年齢では卵子が20個採れれば80%の確率で子どもが持てるということがわかりました。だから当初は20個採ろうと思っていたんです。でも5回目の採卵では2個の卵胞のうち1個が空胞で、1個しか採れませんでした。『あれだけ卵巣を刺激しても1個は空胞。20個採れるまでに何ヶ月かかるんだろう』と思ったら急に気が遠くなってしまい、それ以上はやめることにしました。
15個が満足いく数字かといわれれば心もとないと感じますが、1回離れてよかったとも思っています。そもそも私は、卵子凍結なんて『今どうしても』というわけではなく、あくまで出産に対するオプションの1つとして残しておく、くらいの気持ちでした。でも、やっていくうちにどんどん頭の中が卵胞のことしか考えられなくなり、『空胞でした』と言われるとショックを受けて。最初は仕事の合間に採卵と思っていたのが、採卵の合間に仕事をしているような感じになっていました。
手間もお金もかかるほど『何とか結果を出さないと』と追い詰められましたが、1回離れたことで『私、なんであんなにこだわっていたんだろう』と思えるようになりました」

――今に至るまで勉強を重ね、仕事にもひたむきに取り組んできた山口さんにとって、卵子凍結を通して得た経験は良いものばかりではなかったと言います。

「卵胞については、自分が努力してもどうにもならないというのが、いちばんキツかったですね。私にできることは微々たるもので、結局は自分の卵巣能力によるところが大きい。そんな不合理には耐えられないと、苦しい思いをしました」

生殖年齢だけは男女平等ではない!

――では、卵子凍結をして良かったと思うことは?

「『自分には選択肢がある』ということが自分自身を強くしていると思います。29才くらいの頃は夜な夜な合コンに行って、『絶対に結婚しなきゃ』と思っていました。それは男性から〝選ばれる側〟に回りたいという主体性のない考え方だったので、結果的に選ばれなかったときに『ほんとダメだな、私』と、自己肯定感が下がりまくりました。でも今は、卵子凍結という選択をしたことで〝選ぶ側〟のオプションがあります。自分の人生を主体的に生きているという感覚があるので、自己肯定につながっていると思います」

――これまで、さまざまなメディアで卵子凍結について公表している山口さん。それにはこんな思いも。

「私はもう少し早くに、自分がキャリアとライフをどう両立させるつもりなのか考えておけばよかったなと思っているんです。若い頃は転職や留学など、そのときどきで自分のキャリアを確立するのに精一杯で、どうしてもライフ──とくに子どもを持つことが後回しになりました。でも、同期の男性たちはそういうことをあまり考えずに仕事に邁進している。男女平等といわれて育ち、学生時代は自分が男性に劣っているなんて感じたことは一度もなかったのに、生殖年齢については圧倒的な差がある……。そういうことを女性は20代30代で認識して、将来を考えておくべきだと思います。
さらに、私は最初こそ『卵子凍結によって人生の選択が自分の意のままになる』と楽観視していたけれど、実際に経験してみると『これはこれでキツイな』と思うところがありました。だからこそ、そういう自分の失敗談を後輩の女性たちに伝えておきたいと思ったんです。卵子凍結をおすすめするつもりはありませんが、将来子どもを持ちたいと考えているならAMH値くらいは測っておいたほうがいいよ、って」

※インタビュー本文中に出てくる卵子凍結の流れやデータ、数字はクリニックによって異なります。

●山口真由 Profile

1983年、北海道生まれ。東京大学法学部卒業後、財務省に入省。2008年に退官し、15年まで弁護士として法律事務所に勤務。その後、ハーバード大学ロースクールを修了し、ニューヨーク州弁護士に登録。現在は信州大学特任教授を務めるほか、テレビ出演、執筆、講演会など、幅広く活躍中。『「ふつうの家族」にさようなら』(KADOKAWA)、『世界一やさしいフェミニズム入門 早わかり200年史』(幻冬舎新書)など著書多数。

●構成・文/本木頼子

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この記事のキュレーター

妊娠・出産・育児の総合ブランド「たまひよ」。雑誌『妊活たまごクラブ』『たまごクラブ』『ひよこクラブ』を中心に、妊活・妊娠・出産・育児における情報・サービスを幅広く提供しています。

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